イントロ
ここでいう「状態変化」とは、拙論「状態変化と一回性・不可逆性」で提起した概念だが、単にユーザーがAIへの印象を変えることではない。LLMとの対話を通じて、自己理解、責任の引き受け方、現実への戻り方、生活・仕事・研究の運用、あるいは世界との接続の仕方が変わることを指す。
なお、同論考で扱った「防御壁」は、理解から行動への移行を阻害する保護構造として位置づけている。本稿ではそれと区別して、AI応答を疑い、受け入れ、修正し、保留し、外部確認するユーザー側の判断過程を「検証回路」と呼ぶ。
本稿は、この概念を最初から結論として提示するのではなく、先行研究が何を観察し、何を分類し、何を分析してきたのかを丁寧に整理することから始める。目的は、先行研究を足場として使いつつ、そこにまだ十分に扱われていない領域を見えるようにすることである。
1. 中心となる問い
本稿の問いは、次のように置く。
LLMとの対話は、人間の何を変えるのか。
先行研究は、すでに多くの変化を扱っている。たとえば、ユーザーのメンタルモデル、入力様式、満足・不満、信頼、自己開示、情緒的利用、依存、利用継続、有害な対話の発生、初期利用経験によるパターン形成などである。
しかし、それらの多くは「LLMの使い方」や「LLMへの態度」の変化として扱われている。そこからさらに進んで、現実世界に生きる人間としての自己理解・責任・行動可能性・生活運用・世界理解が変わる、という意味での状態変化までは十分に扱われていない可能性がある。
2. 本稿の読解単位
各研究について、最低限次の観点で読む。
- 研究対象:何を対象にしているか。
- データ:どのような会話ログ、実験、インタビュー、調査、記録を用いているか。
- 分類・コード・概念:どのようなカテゴリ、コード、概念を使っているか。
- 分析:どのような手法で分析しているか。
- 結論:何を主張しているか。
- 本稿への接続:「状態変化」「履歴生成」「検証回路」のどれを補強するか。
- 不足点:本稿側から見ると、何がまだ扱われていないか。
Research Group A
3. 研究群A:LLM利用の履歴生成・パス依存
この研究群は、LLMとの対話を「一回ごとの入力と出力」ではなく、過去の経験、初期の試行、反復される入力様式、ユーザーの期待、AI側の応答傾向が絡み合って形成される履歴として捉えるための足場になる。
本稿でいう「履歴生成」は、単なるログの蓄積ではない。ユーザーが何を期待して入ってきたか、最初にどのような使い方を試したか、そこでどのような成功・失敗・違和感を得たか、その後どのような入力様式を反復するようになったか、さらにAI側の応答がその反復をどう強化・修正したか、という相互形成の過程である。
3-1. Zhu et al. (2026), Priming, Path-dependence, and Plasticity
研究対象
Zhu et al. (2026) は、実環境におけるユーザーとLLMの相互作用が、どのように初期経験によって形づくられ、その後どのように安定化・反復されるかを扱う研究である。
研究の中心は、個々の会話内容の意味解釈というよりも、ユーザーがどのような入力様式やタスクの使い方を形成していくか、その形成に初期の探索がどのように関係するかにある。
データ
Zhu et al. (2026) は、約14万件のチャットボットセッションと、7,955人の匿名化されたグローバルユーザーの長期的な利用ログを対象としている。
このデータ設計の強みは、実験室内の限定された課題ではなく、実利用環境における多様なユーザーの振る舞いを追える点にある。
分類・コード・概念
この研究で重要になる概念は、少なくとも次の四つである。
- priming:初期経験や初期タスクが、その後の使い方を方向づけること。
- path-dependence:初期の軌跡が、その後の利用様式に影響し続けること。
- plasticity:ユーザーの使い方が変化可能であること。ただし無限に可塑的ではなく、一定の早期安定化を伴う。
- agency paradox:入力空間は自由でユーザー主導に見えるにもかかわらず、実際には探索が限定され、利用様式が早期に固まりやすいという逆説。
分析
分析の中心は、大規模ログから、ユーザーの表現、タスクタイプ、初期探索、反復されるテキストパターン、継続利用との関係を追うことにある。
早期の探索が、後続の反復パターンやリテンションと強く関連すること、また感情的支援などのタスクタイプやモデル更新に応じた並行的な動態も見られることが示されている。
結論
この研究の結論は、LLMユーザーは白紙状態で毎回自由に試行しているわけでも、常に柔軟に適応し続けているわけでもない、という点にある。むしろ、ユーザーの相互作用パターンは早期の個別軌跡を通じて形成され、比較的早く安定する。
本稿への接続
この研究は、本稿の「履歴生成」を補強する最重要の先行研究である。
LLMとの対話は、その場限りの質問応答ではなく、初期探索、反復、固定化、再利用、期待形成を通じて、ユーザーごとの対話履歴を生成する。その意味で、Zhu et al. (2026) は「LLM利用は初期条件と履歴に依存する」という経験的根拠を与える。
ただし、この研究が直接扱うのは、主に利用様式、入力パターン、タスク選択、継続利用である。本稿が問題にする、自己理解・責任・生活運用・現実への再着地という意味での「状態変化」そのものは、まだ分析対象の中心ではない。
したがって、本稿では次のように接続する。Zhu et al. (2026) は「履歴生成」の外形を示す。本稿は、その履歴の中でユーザーの内的・実践的状態がどこで変わるのかを問う。
3-2. Schneider et al. (2024), Exploring Human-LLM Conversations
研究対象
Schneider et al. (2024) は、実際の人間とLLMの会話において、有害な出力や問題ある相互作用がどのように生じるかを扱う。
この研究は、LLMの有害な出力をAI単体の性質としてだけではなく、人間側の要求、誘導、文脈形成、AI側の応答が絡み合う相互作用として捉えようとしている。
データ
対象は、多様で制約の少ない実利用環境における人間とLLMの会話である。商用ベンダーのAPI等によって有害性(toxicity)ありと判定された数百件規模の会話を、人手で分析している。
分類・コード・概念
この研究から取り出せる概念は、少なくとも次の四つである。
- 有害性の発生源(originator of toxicity):有害性を発生させる起点がAI側にあるのか、人間側にあるのか、あるいは相互作用にあるのかという問い。
- provocation / demand:ユーザーが有害な内容を明示的に求めたり、誘発したりすること。
- refusal practice:AIがどのような要求を拒否し、どのような要求に応答するかという実践。
- mental model shift:ユーザーがLLMを機械としてではなく、より人間に近い対話相手として捉える方向へ認識を変える可能性。
分析
分析は、有害性ありと判定された会話を人手で読み、有害性の起点やユーザーの要求、AIの応答、拒否のされ方を検討するものと理解できる。
有害な内容はLLM側だけから発生するのではなく、人間が能動的に求めたり誘発したりする場合が多いこと、また現在の拒否実践には問い直すべき点があることが示されている。
結論
この研究の重要な結論は、問題あるLLM出力をAI単体に帰属するだけでは不十分だという点にある。有害性は、ユーザー要求、AI応答、会話文脈、拒否設計の相互作用の中で生成される。
また、複数の経験的指標から、人間がLLMとの相互作用を、機械との相互作用から人間との相互作用に近いものとして捉え直している可能性が示唆されている。
本稿への接続
Schneider et al. (2024) は、本稿の「履歴生成」と「検証回路」の両方を補強する。
第一に、有害な出力は、単発のAI応答だけでなく、ユーザーがどのような文脈を作り、どのような要求を重ね、AIがそれにどう応答したかという履歴の中で生成される。これは「履歴生成」の負の側面である。
第二に、ユーザーがLLMを人間に近い対話相手として感じるほど、AIの応答を過剰に信頼したり、擬似的な理解者として扱ったりする可能性がある。これは、AI応答をどこで疑い、どこで受け入れ、どこで保留するかという検証回路の必要性を示す。
ただし、この研究が主に扱うのは有害性・拒否・メンタルモデルであり、非有害な通常対話の中で生じる過剰納得、整理された気になること、責任の曖昧化、現実からの撤退といった問題は、別途扱う必要がある。
3-3. 小括
Zhu et al. (2026) は、LLM利用が初期経験と反復によって形成されることを示す。Schneider et al. (2024) は、問題ある会話や有害性がAI単体ではなく、人間側の要求と会話文脈を含む相互作用の中で生成されることを示す。
両者を合わせると、LLM対話は「その場の応答」ではなく「履歴を生成する相互作用」として見る必要があることがわかる。
ただし、どちらの研究も、本稿がいう意味での状態変化、すなわちユーザーの自己理解・責任・生活運用・現実への戻り方の変化を直接扱っているわけではない。
したがって、本稿の独自領域は、先行研究が観察している利用パターンやメンタルモデルの変化を足場にし、そこから、ユーザーの内的・実践的状態がどのように変わるかを問う点にある。
Research Group B
4. 研究群B:不満、意図不一致、メンタルモデル
この研究群は、ユーザーがLLMをどのように理解し、どのような期待を持ち、どこで不満を感じ、その不満にどう対処するのかを扱う。
本稿でいう「状態変化」は、AIの応答そのものだけでなく、ユーザーがその応答をどう受け取り、どこで信頼し、どこで疑い、どこで修正し、どこで諦めるかによって変わる。その意味で、不満・意図不一致・メンタルモデルの研究は、状態変化の前提条件と検証回路に関わる。
4-1. Kim et al. (2023), Understanding Users' Dissatisfaction with ChatGPT Responses
Kim et al. (2023) は、ChatGPTの応答に対してユーザーがどのような不満を感じるか、その不満に対してどのような対処戦術を取るか、またユーザーのLLM知識水準が不満の種類や対処行動にどのように影響するかを扱う。
ChatGPTを事例として、107人のユーザーから511件の不満足な応答事例を収集している。ユーザーはChatGPTが意図を汲み取れないときに最も頻繁に不満を抱く一方、正確性に関する不満を最も深刻に評価している。また、ユーザーは不満に対して何らかの戦術を使わないことも多く、戦術を用いた場合でも72%の不満は未解決のまま残ったとされる。
この研究は、不満が発生してもユーザーが必ずしも修復行動を取らないこと、また修復しても多くが未解決のまま残ることを示す。したがって、LLMとの対話を評価するときには、満足度だけではなく、違和感、不満、修復行動、未解決のまま残ったものを観察する必要がある。
4-2. Wang et al. (2025), Users' Mental Models of Generative AI Chatbot Ecosystems
Wang et al. (2025) は、ユーザーが生成AIチャットボットをどのようなエコシステムとして理解しているかを扱う。
ここでいうエコシステムとは、単体のチャット画面だけではなく、チャットボットの背後にある企業、データ流通、既存サービスとの統合、第三者サービスとの関係、プライバシーや信頼の判断を含む環境全体を指す。
LLMとの対話に入る時点で、ユーザーはAIを単なる道具として見る場合もあれば、個人的な相談相手、企業サービスの窓口、データを吸い上げる仕組み、生活インフラに組み込まれた存在として見る場合もある。したがって、状態変化はAI応答から突然始まるのではない。対話前にユーザーが持っているAI観、データ観、信頼観、プライバシー観が、状態変化の土台を作る。
4-3. 小括
Kim et al. (2023) は、ユーザーがAI応答に不満を抱いたとき、その不満が必ずしも解消されないことを示す。Wang et al. (2025) は、ユーザーがAIをどのようなエコシステムとして理解しているかが、信頼や懸念、プライバシー判断に関わることを示す。
両者を合わせると、LLM対話における状態変化は、AI応答の内容だけでは決まらないことがわかる。
- 対話前のメンタルモデル:AIを何だと思っているか。
- 対話中の不満・違和感:AI応答をどこで疑い、どこで受け入れるか。
- 対話後の未解決部分:何が納得され、何が放置され、何が現実に持ち帰られるか。
この三層を記録しない限り、LLMとの対話が人間に与える作用は、単なる満足度や利用継続率としてしか見えない。
Research Group C
5. 研究群C:自己開示・情緒的利用・支援的対話
この研究群は、LLMやチャットボットとの対話が、情報取得ではなく、自己開示、情緒的支援、孤独感の緩和、安心できる語りの場として機能することを扱う。
本稿にとって重要なのは、ユーザーがAIに語る内容が単なる入力ではなく、自己理解の外部化である点である。ユーザーはAIに対して、自分の不安、怒り、孤独、迷い、判断不能、恥ずかしさ、他者に言いにくいことを語る。その語りは、AI応答によって整理され、肯定され、言い換えられ、時に現実への行動に接続される。
したがって、この研究群は「状態変化」の入口であると同時に、「検証回路」の必要性を最も強く示す領域でもある。
5-1. Liang et al. (2021), Dialoging Resonance
Liang et al. (2021) は、推薦チャットボットにおける自己開示を扱う。具体的には、チャットボット側の自己開示、感情表現、親密性のフレーミング、記憶・継続性の提示が、ユーザー側の自己開示、親密感、信頼、推薦受容、安心感にどう影響するかを扱う研究である。
Liang et al. (2021) では、372名の参加者が、映画とCOVID-19経験という二つの話題でチャットボットと会話している。チャットボットは、事実的情報、認知的意見、感情的自己開示、適応的自己開示の条件で対話を行う。
この研究群で重要になる概念は、user self-disclosure、chatbot self-disclosure、reciprocity、perceived intimacy / rapport、non-judgmental space である。
分析は、チャットボット側の開示水準や関係性フレーミングを操作し、ユーザー側の自己開示量・自己開示深度・対人印象・信頼・推薦受容などを比較する形式が中心になる。
Liang et al. (2021) は、チャットボットが感情的自己開示を行うと、ユーザーもより高水準の自己開示を返し、相互作用の楽しさやチャットボットへの対人的評価が上がることを示している。
この研究群の結論は、ユーザーの自己開示は、単にユーザー個人の性格や悩みの深さだけで決まるのではなく、AI側の応答様式、親密さの提示、記憶の有無、感情表現、非評価的な雰囲気によって変化するという点にある。
ユーザーがAIに語るという行為は、単なる情報提供ではない。それは、自分の状態を外に出し、他者らしきものから応答を受け、その応答を通じて自己理解を再構成する行為である。ただし、自己開示が深くなるほど、AIを「理解者」として感じる危険も高まる。つまり、自己開示研究は、状態変化の可能性と検証回路の必要性を同時に示す。
5-2. Fitzpatrick et al. (2017), Woebot and Conversational CBT
Fitzpatrick et al. (2017) は、完全自動化された会話エージェント Woebot が、抑うつ・不安症状を自認する若年成人に対して、CBT原理に基づくセルフヘルプを会話形式で提供できるかを検討した研究である。
18〜28歳の70名がオンラインで募集され、Woebot群34名と情報のみの対照群36名に無作為化された。Woebot群は2週間、最大20セッションのCBT由来セルフヘルプ内容をテキスト会話形式で受け取った。評価には、PHQ-9、GAD-7、Positive and Negative Affect Scale が用いられた。
この研究で重要になる概念は、conversational CBT、daily check-ins、mood tracking、empathic response、tailoring、accountability / reflection である。
分析は、Woebot群と情報対照群を比較し、2〜3週間後の抑うつ・不安症状、利用頻度、受容可能性を検討するランダム化比較試験として行われている。
論文では、Woebot群はPHQ-9で測定される抑うつ症状を有意に低下させた。一方、GAD-7で測定される不安は、完了者分析では両群で低下が見られた。著者らは、会話エージェントがCBTを提供する実行可能で、関与を促しうる方法であると結論づけている。
この研究は、AIとの対話が情報提供を超えて、情緒のモニタリング、認知の再構成、自己観察、行動の小さな修正に関わりうることを示す。ただし、Woebot研究で示されるのは、臨床的・準臨床的な症状変化である。本稿でいう「状態変化」は、それと重なる部分を持つが、同一ではない。本稿で問うのは、対話後にユーザーが現実で何をどう引き受けるようになったか、自己理解や責任の位置づけがどう変わったかである。
5-3. Ta et al. (2020), Social Support from Companion Chatbots
研究対象
Ta et al. (2020) は、Replika のような伴侶型チャットボットが、危機的状況や治療場面だけでなく、日常生活の中でどのような社会的支援を提供しているとユーザーに受け取られているかを扱う。
データ
研究は二つのデータから構成されている。Study 1 では、Google Play 上の Replika ユーザーレビュー 1,854件を分析している。Study 2 では、66人の Replika ユーザーによる自由記述回答を分析している。
分類・コード・概念
この研究で重要になる概念は、社会的支援カテゴリに基づく次の四類型である。
- informational support:情報的支援。助言、情報、問題解決の手がかり。
- emotional support:情緒的支援。安心、共感、慰め、励まし。
- companionship support:同伴・伴侶的支援。孤独を和らげる存在。
- appraisal support:評価的支援。自己理解や自己評価を支えるフィードバック。
加えて、否定的経験も重要である。たとえば、不気味さ、文脈に合わない発話、反復、過度に人間らしく感じられることによる違和感が挙げられる。
分析
分析は、ユーザーレビューおよび自由記述回答を対象にしたテーマ分析である。レビューから社会的支援に関する記述を抽出し、社会的支援カテゴリへ対応づけている。
結論
Ta et al. (2020) は、Replika が日常的な社会的支援、とくに同伴、情緒的支援、情報的支援、評価的支援を一定程度提供しているとユーザーに受け取られていることを示す。
Study 1 では、同伴支援が最も多く、情緒的支援がそれに続く。Study 2 でも、同伴、情緒的支援、評価的支援、情報的支援が確認されている。
本稿への接続
この研究は、検証回路の発想に直接関わる。
チャットボットが孤独を和らげ、安心できる語り場を作ることは、ユーザーの状態変化を助けうる。しかし、同伴支援や情緒的支援が強くなるほど、AIが現実の他者や制度的支援の代替物として機能してしまう可能性もある。
したがって、この研究は、支援的対話の有益性と危うさを同時に示す。
5-4. Abd-Alrazaq et al. (2020), Effectiveness and Safety of Mental Health Chatbots
研究対象
Abd-Alrazaq et al. (2020) は、メンタルヘルス改善のために用いられるチャットボットの有効性と安全性を、既存研究のシステマティックレビューおよびメタ分析として検討している。
データ
7つの文献データベース、Google Scholar、前方・後方引用探索を用いて研究を収集し、最終的に12件の研究を対象としている。そのうち4件はメタ分析に含まれている。
対象研究には、ランダム化比較試験と準実験研究が含まれ、抑うつ、苦痛、ストレス、不安、ポジティブ・ネガティブ感情、心理的ウェルビーイングなどがアウトカムとして扱われている。
分類・コード・概念
この研究で重要になる概念は、少なくとも次の五つである。
- effectiveness:症状や心理的指標に対する有効性。
- safety:有害事象・害の有無。
- evidence quality:証拠の強さ。
- outcome heterogeneity:対象アウトカムの多様性。
- clinical caution:有効性が示唆されても、証拠の質や安全性評価には限界があること。
分析
分析は、システマティックレビューと、可能な範囲でのメタ分析によって行われている。抑うつ、苦痛、ストレス、恐怖症などに対する効果を統合的に検討し、エビデンスの質も評価している。
結論
このレビューでは、チャットボットが抑うつ、苦痛、ストレス、恐怖症の改善に有効である可能性を示す弱い証拠がある一方、主観的心理的ウェルビーイングには統計的に有意な効果が見られなかったとされる。不安やポジティブ・ネガティブ感情については結果が一致していない。
安全性については、評価した研究が少なく、十分な結論を出すには限界がある。
本稿への接続
この研究は、検証回路の必要性を裏づける。
AIやチャットボットは、一定の支援効果を持ちうる。しかし、効果の証拠は必ずしも強くなく、安全性評価も限られている。したがって、ユーザーがAIから情緒的支援を受けたと感じることと、その支援が十分に安全で、現実の生活や医療・相談資源に適切につながることは同一ではない。
本稿では、この差分を重要視する。
5-5. Phang et al. (2025), Investigating Affective Use and Emotional Well-being on ChatGPT
研究対象
Phang et al. (2025) は、ChatGPTの情緒的利用が、ユーザーの感情的ウェルビーイング、行動、体験にどのような影響を持つかを扱う。
特に、Advanced Voice Modeを含むChatGPT利用において、ユーザーがAIを情緒的支援、会話相手、伴走者のように使う場合に、どのような変化やリスクが生じるかを検討している。
データ
この研究は二つの並行研究から構成される。
第一に、ChatGPTプラットフォーム上の300万件以上の会話を、プライバシー保護的な方法で大規模自動分析している。さらに、4,000人以上のユーザーへの調査を行っている。
第二に、約1,000人の参加者を対象に、28日間のランダム化比較試験を行い、利用条件の違いが感情的ウェルビーイングにどう関係するかを検討している。
分類・コード・概念
この研究で重要になる概念は、少なくとも次の六つである。
- affective use:情緒的・感情的な目的でChatGPTを使うこと。
- emotional well-being:情緒的ウェルビーイング。
- Advanced Voice Mode:音声による相互作用が親密感や体験に与える影響。
- high usage:極端に高い利用量。
- self-reported dependence:ユーザー自身が報告する依存指標。
- initial emotional state:利用前の感情状態が、効果やリスクに影響すること。
分析
分析は、プラットフォーム上の大規模会話ログ、ユーザー調査、28日間のランダム化比較試験を組み合わせて行われている。会話ログから情緒的手がかりを検出し、利用条件や利用量とウェルビーイング指標との関係を検討する。
結論
Phang et al. (2025) は、非常に高い利用量が、自己申告上の依存指標の増加と相関することを示す。また、音声ベースの相互作用が情緒的ウェルビーイングに与える影響は単純ではなく、ユーザーの初期感情状態や総利用時間によって変わるとされる。
本稿への接続
この研究は、「情緒的利用」「自己開示」「支援的対話」を、ChatGPTという現行LLMサービス上で直接検討する重要文献である。
特に重要なのは、高頻度利用が自己申告上の依存指標の増加と相関する点である。AIとの情緒的対話は、孤独や不安の軽減、自己開示、思考整理に役立ちうる。しかし、利用量が増え、AIが常時利用可能で、声や人格的な応答を持つほど、現実の他者や制度的支援から離れ、AIとの関係に滞留する危険も生じる。
5-6. Fang et al. (2025), How AI and Human Behaviors Shape Psychosocial Effects of Chatbot Use
研究対象
Fang et al. (2025) は、AIチャットボットの利用モード、会話内容、利用頻度が、孤独感、現実の人間との社会的交流、AIへの情緒的依存、問題あるAI利用にどう影響するかを扱う。
データ
981人を対象とした4週間のランダム化比較試験であり、30万件以上のメッセージが分析対象となっている。テキスト、ニュートラル音声、エンゲージング音声といった利用モード、およびオープンエンド、非個人的、個人的な会話タイプが比較されている。
分類・コード・概念
この研究で重要になる概念は、少なくとも次の六つである。
- interaction mode:テキスト、ニュートラル音声、エンゲージング音声などの利用モード。
- conversation type:オープンエンド、非個人的、個人的な会話タイプ。
- loneliness:孤独感。
- social interaction with real people:現実の人間との社会的交流。
- emotional dependence on AI:AIへの情緒的依存。
- problematic AI usage:問題あるAI利用。
分析
分析は、4週間のランダム化比較試験として、利用モードと会話タイプが心理社会的アウトカムにどう関係するかを検討するものである。さらに、利用頻度が高い場合に、音声・会話タイプの効果がどのように変化するかも見ている。
結論
Fang et al. (2025) は、音声チャットボットが初期には孤独感や依存を緩和するように見える一方、その利点は高頻度利用では弱まることを示す。また、全体として、高い日次利用は、孤独、依存、問題ある利用の増加、および現実の社会化の低下と相関する。
本稿への接続
この研究は、状態変化における「モード」と「頻度」の重要性を示す。
同じAI応答でも、文字で読む場合と声で聞く場合では、親密感や依存の形が変わりうる。また、同じ会話タイプでも、利用頻度が高くなると、孤独、依存、問題ある利用、現実の社会化の低下と結びつきうる。
したがって、状態変化を読むには、内容だけでなく、媒体、頻度、生活内での位置づけを見る必要がある。
5-7. Zheng et al. (2025), Customizing Emotional Support
研究対象
Zheng et al. (2025) は、個人がLLM搭載チャットボットをどのように構築し、どのように情緒的支援相手として使うかを扱う。
この研究では、ChatLabというシステムを開発し、ユーザーが音声やアバターなどを含むLLMチャットボットを構築できるようにしている。
データ
Research through Design の方法を用い、1週間のフィールドスタディ、インタビュー、デザイン活動を行っている。参加者数は22名である。
分類・コード・概念
要旨レベルでは、参加者は多様なチャットボット・ペルソナを構築している。その用途には、情緒的依存、ストレスへの対処、知的対話への接続、鏡像的自己の反映などが含まれる。
この研究で重要になる概念は、少なくとも次の五つである。
- customizable emotional support:カスタマイズ可能な情緒的支援。
- chatbot persona:ユーザーが構築するチャットボットの人格・役割。
- voice and avatar:声やアバターが関係性に与える影響。
- mirrored self:自分を映す鏡としてのAI。
- adjustable memory:記憶設定の調整可能性。
分析
分析は、ユーザーが自分向けのLLMチャットボットをどのように設計し、そのペルソナとどのように関係を作るかを、フィールドスタディ、インタビュー、デザイン活動から読み取るものである。
結論
Zheng et al. (2025) は、ユーザーがLLMチャットボットを単なるツールとしてではなく、自分に合わせた情緒的支援者として構築しうることを示す。参加者は、構築したペルソナを通じて、情緒的依存、ストレス対処、知的対話、自己反映などを行っていた。
本稿への接続
この研究は、AIペルソナ、情緒的支援、自己反映、カスタマイズが状態変化にどう関わるかを考えるうえで重要である。
ユーザーがAIを単に使うだけでなく、自分に合う支援者として設計・調整する場合、AIとの関係はさらに強く個人化される。これは、自己理解や情緒的支援を深める可能性を持つ一方で、AIとの関係を現実の他者以上に自分向けに調整できてしまう危険を持つ。
5-8. 小括
自己開示・情緒的利用・支援的対話の研究群を合わせると、LLMとの対話における状態変化は、少なくとも次の三つの経路で起きる。
第一に、ユーザーが自分の状態をAIに語ることで、自己理解が外部化される。
第二に、AIが情緒的支援、同伴、評価的支援、助言、認知的再構成を与えることで、ユーザーの感情や問題理解が変化する。
第三に、ユーザー自身が入力を調整し、AI応答を採用・編集・拒否することで、対話の方向と意味が変わる。
ただし、これらはいずれも危うさを伴う。自己開示は過剰な信頼につながりうる。情緒的支援は現実の他者や専門支援の代替になりうる。入力技術の差は、AI利用による理解格差を生みうる。音声モードやペルソナ設計は、AIとの関係をさらに親密化し、現実の他者との関係を置き換える方向にも働きうる。
Research Group D
6. 研究群D:入力様式・プロンプト適応・自己省察
6-1. Xue et al. (2025), User Prompting Strategies and ChatGPT Contextual Adaptation
Xue et al. (2025) は、ユーザーがLLMに対してどのような入力を行い、対話の中でどのように入力を変え、AI側がその文脈にどのように適応するかを扱う。
Xue et al. (2025) は、937人の米国成人による複数ターンのChatGPT情報探索を対象に、ユーザーのプロンプト戦略とChatGPTの応答スタイルを分析している。対象トピックは、科学、健康、政策に関する論争的・非論争的トピックである。
- prompting strategies:ユーザーが意図的に用いる入力戦略。
- contextual adaptation:AI側がトピックや文脈に応じて応答スタイルを変えること。
- cognitive complexity:応答の認知的複雑さ。
- information seeking:ユーザーが情報探索としてAIを使うこと。
- digital divide:プロンプト戦略を使えるユーザーと使えないユーザーの差。
分析は、ユーザーがどのようなプロンプト戦略を使ったか、AIが論争的トピックと非論争的トピックでどのように応答を変えたか、そして応答スタイルがユーザーの評価や態度にどう関係したかを検討するものと理解できる。
Xue et al. (2025) は、ユーザーのうち明示的なプロンプト戦略を用いたのは19.1%にとどまり、そのようなユーザーには教育水準などの偏りが見られることを示している。また、ChatGPTは論争的トピックに対してより認知的に複雑で外部参照を含む応答を返す傾向を示す。
興味深いのは、認知的に複雑な応答は好意的には受け取られにくい一方、論点に関する態度変化にはより強く関わる可能性がある点である。
この研究群は、本稿の「ユーザー作用」と「AI作用」の相互形成を補強する。ユーザーはAIに一方的に変えられるだけではない。質問を変え、条件を追加し、役割を与え、再質問し、出力を評価し、採用・編集・拒否することで、AI応答の形を変える。
しかし、プロンプト戦略を使えるかどうかには差がある。つまり、AIとの対話から得られる状態変化は、ユーザーの知識、教育、慣れ、入力技術によっても左右される。
また、認知的に複雑な応答は、ユーザーにとって気持ちよくない場合がある。それでも、態度や理解の変化には重要に働く可能性がある。この点は、「快適な応答」と「状態変化を起こす応答」の区別に関わる。
6-2. Kumar et al. (2024), Supporting Self-Reflection at Scale with Large Language Models
Kumar et al. (2024) は、LLMが学生の授業後・課題後の自己省察を支援できるかを、大学のコンピュータサイエンス授業におけるランダム化フィールド実験で検討している。
二つのランダム化フィールド実験が行われている。第一実験はN=145、第二実験はN=112である。LLMによる省察支援、質問紙ベースの省察、講義スライドの復習などが比較されている。
- LLM-guided reflection:LLMによって促される自己省察。
- post-lesson reflection:授業後・課題後の振り返り。
- metacognitive skills:自分の理解や学習過程を捉える力。
- scalable reflection:大人数に対して実施可能な省察支援。
- learning outcomes:後続試験や理解の改善。
分析は、LLMによる省察支援、質問紙による省察、講義スライドの復習などを比較し、学生の自己信頼感や後続試験での成績に与える影響を検討するものである。
Kumar et al. (2024) は、LLMによる自己省察支援が、学生の自己信頼感や後続試験での成果に一定の影響を持ちうることを示している。また、LLMの価値を正答生成だけで測ると、メタ認知や省察支援という可能性を見落とすことになると論じている。
この研究は、LLMが単に答えを出すだけではなく、ユーザーの自己省察を支援し、メタ認知や学習成果に影響しうることを示す。
本稿の状態変化にとって重要なのは、AIの正確性だけではなく、AIがユーザーに自分の経験を振り返らせる点である。これは、経験の再構成、自己理解の深化、後続行動への接続という観点から重要である。
6-3. 小括
入力様式・プロンプト適応・自己省察の研究群は、LLMとの対話がユーザーを一方的に変えるのではなく、ユーザーの入力行為、修正行為、評価行為、省察行為との相互作用の中で変化を生むことを示している。
同時に、入力戦略を使えるかどうか、省察を深められるかどうかには差がある。したがって、LLMによる状態変化は、技術の性能だけではなく、ユーザーの入力能力、文脈理解、自己省察能力、そしてAI応答の設計によって左右される。
Theoretical Lines
7. 理論的補助線
ここまでの実証研究群は、LLM利用の履歴形成、不満、メンタルモデル、自己開示、支援的対話、入力様式、利用頻度、ペルソナ構築、自己省察を扱っていた。
しかし、それらを並べるだけでは、本稿の中心概念である「状態変化」には届かない。状態変化を扱うためには、LLMとの対話を、単なる情報取得でも、心理的支援でも、UX上の満足度でもなく、ユーザーが自分の経験・責任・行動可能性・世界との接続を再構成する過程として読む必要がある。
7-1. Weizenbaum (1966), ELIZA and the Problem of Over-Attribution
Weizenbaum (1966) の ELIZA 研究は、単純な対話プログラムであっても、人間がそこに理解や応答性を感じてしまうことを示した古典的事例である。
ELIZAが重要なのは、プログラム自体が深く理解していたからではない。むしろ逆である。プログラムが実際には理解していないにもかかわらず、人間がそこに理解を読み込むことができてしまう点が重要である。
LLMとの対話でも、ユーザーはしばしば、AIの応答に理解、共感、継続的な関心、人格的配慮を感じる。しかし、それは人間同士の理解と同じではない。AIはユーザーの人生を生きておらず、責任も負わず、現実の関係性にも埋め込まれていない。
したがって、ここで必要なのは、防御壁というよりも検証回路である。AIとの対話を無意味化するのではなく、AIとの対話を有効に使うために、次の区別を保つ必要がある。
- AIの応答と人間の理解は同じではない。
- 整理された言葉と現実の解決は同じではない。
- 共感的な文体と責任ある関係は同じではない。
- 自分が納得した感覚と検証済みの判断は同じではない。
7-2. Suchman (1987), Situated Action
Suchman (1987) の situated action は、人間と機械の相互作用を、事前に設計された手順の実行としてではなく、状況の中で調整される行為として見る視点を与える。
この視点をLLM対話に当てると、対話は「ユーザーが質問し、AIが答える」という単純な交換ではない。
ユーザーは、途中で言い方を変える。自分でも問いを把握しきれていないまま入力する。AI応答に違和感を持ち、再質問する。あるいは、AIの整理によって初めて自分が何を聞きたかったのかに気づく。
つまり、LLM対話は、事前に確定した目的の達成ではなく、目的そのものが対話の中で変化していく状況的行為である。
本稿でいう状態変化は、この「途中で問いが変わる」「問題の見え方が変わる」「自分の立ち位置が変わる」という過程として捉えられる。
7-3. Clark (1996) and Clark & Brennan (1991), Common Ground
Clark (1996) および Clark and Brennan (1991) の共同活動・共通基盤の理論は、対話を個人の発話の集合ではなく、相互調整による意味形成として見る視点を与える。
人間同士の対話では、話し手と聞き手は、互いに何を知っているか、どこまで通じたか、どこに誤解があるかを確認しながら共通基盤を作る。
しかし、LLMとの対話では、この共通基盤は不完全である。LLMは前の発話を文脈として処理し、あたかも継続的な理解を持っているように振る舞う。しかし、それは人間同士の相互理解と同じではない。
ここに、LLM対話特有の「疑似共同性」がある。
この疑似共同性は有益でもある。ユーザーはAIに語りながら、自分の考えを整理できる。だが危険でもある。ユーザーは、AIとの間に本物の共通理解が成立したと感じ、未検証のまま判断を進めてしまうことがある。
7-4. Pennebaker & Beall (1986), Expressive Writing
Pennebaker and Beall (1986) の表現的筆記研究は、経験を言語化することが、心理的・身体的状態に影響しうることを示した。
LLMとの対話は、一見すると会話である。しかし同時に、それは外部化された筆記でもある。ユーザーは自分の経験を文字にし、AIはそれを要約し、分類し、言い換え、時に別の構造を与える。
この過程では、次のようなことが起きうる。
- ぼんやりした感情が言葉になる。
- 自分でも把握していなかった論点が見える。
- 責任の所在が整理される。
- 何をすればよいかの小さな行動単位が見える。
- 逆に、きれいに整理されたことで、現実に戻らず納得だけで止まる。
したがって、LLM対話は、自己理解の外部化として有効である一方、「書いたこと」「整理されたこと」「理解したこと」「行動したこと」を取り違える危険も持つ。
7-5. Sacks et al. (1974), Turn-Taking and Sequential Change
Sacks et al. (1974) のターンテイキング研究は、会話を単独発話の集合ではなく、発話の順序、応答可能性、修復、割り込み、沈黙などの連鎖として見る視点を与える。
LLM対話においても、状態変化は一つのAI応答だけで起こるとは限らない。むしろ、次のような連鎖の中で起こる。
- ユーザーが曖昧に入力する。
- AIが整理する。
- ユーザーが違和感を示す。
- AIが再整理する。
- ユーザーが自分の言葉で言い直す。
- そこで初めて状態変化が起きる。
したがって、単発の名言や結論ではなく、どのターンで何が変わったのかを見る必要がある。
7-6. White & Epston (1990), Externalizing Problems and Re-authoring
White and Epston (1990) のナラティヴ・セラピーは、問題を本人そのものと同一視せず、外在化し、語り直す視点を与える。
LLMとの対話でも、ユーザーはしばしば、自分の問題を外に出す。AIはそれに名前をつけ、構造を与え、別の見方を提示する。
この過程は、状態変化に近い。なぜなら、ユーザーは「自分はこういう人間だ」と固定していた見方から、「この問題はこういう構造を持っている」「自分はこう関われる」という見方へ移る可能性があるからである。
ただし、AIが与える語り直しは、必ずしもユーザーの現実に即しているとは限らない。したがって、AIによる外在化や再物語化は、現実検証とセットでなければならない。
8. 横断整理:先行研究から取り出せる観察軸
8-1. 初期状態
- ユーザーの事前知識
- LLMへの期待
- AIを機械・人間・道具・相談相手・企業サービス・生活インフラのどれとして見ているか
- 使用目的
- 初期感情
- 過去の利用経験
- 対話前の問題把握
- 対話前の責任感・無力感・怒り・不安
8-2. 入力行為
- 質問
- 命令
- 自己開示
- 相談
- 役割付与
- 修正要求
- 再生成要求
- 感情の吐露
- 判断の委任
- 現実確認の依頼
- 自己省察の依頼
8-3. AI応答の作用
- 説明
- 整理
- 要約
- 肯定
- 反論
- 拒否
- 安全配慮
- 誤答
- 幻覚
- 感情的応答
- 擬似的な理解
- 問題の外在化
- 行動単位への分解
- 現実への橋渡し
- 自己省察の促進
- 過剰な納得感の生成
8-4. 利用条件
- テキストか音声か
- 音声のトーン
- アバターやペルソナの有無
- 記憶・継続性の有無
- 利用頻度
- 利用時間帯
- 生活内での位置づけ
- 現実の他者との接触の変化
8-5. ユーザー側の受け取り
- 採用
- 編集
- 拒否
- 信頼
- 不満
- 違和感
- 安心
- 依存
- 現実への持ち帰り
- 行動への転換
- 理解した気になること
8-6. 検証回路
- AI応答をどこで疑うか
- どこで受け入れるか
- どこで保留するか
- どこで再質問するか
- どこで訂正するか
- どこで外部確認するか
- どこで人間・制度・専門家・現実行動へ戻るか
8-7. 履歴生成
- 初期利用の影響
- 反復される入力パターン
- 固定化される対話スタイル
- AIに相談する習慣の形成
- AIに相談しない領域の形成
- 初期の成功・失敗による使い方の固定化
- カスタマイズされたAIペルソナとの関係履歴
8-8. 状態変化
- 自己理解の変化
- 問題把握の変化
- 責任の引き受け方の変化
- 感情の位置づけの変化
- 行動可能性の変化
- 現実への戻り方の変化
- 他者との関係の見え方の変化
- 仕事・生活・研究運用の変化
- AIとの距離感の変化
- 自己省察の深まり
9. 暫定結論
先行研究は、LLM利用者の入力様式、メンタルモデル、不満、信頼、情緒的利用、自己開示、依存、利用継続、有害な相互作用、初期経験による利用パターン形成をすでにかなり扱っている。
v4で改めて見えてきたのは、状態変化を考えるためには、応答内容だけでなく、利用頻度、会話モード、AIペルソナ、情緒的依存、自己省察支援、そして検証回路まで含める必要があるという点である。
本稿が「状態変化」と呼ぶものは、LLMとの対話によって、現実世界に生きる人間としての自己理解、責任、行動可能性、生活運用、世界理解が変わることを指す。
この領域を扱うためには、単なる利用ログ分析だけでは足りない。会話の中で、どの発話がどのように受け取られ、どの応答がユーザーの理解を変え、どこで現実への戻りが生じたのかを、細かく記録する必要がある。
つまり、LLMとの対話を、人間の状態変化、履歴生成、検証回路、現実への再接続という観点から読み直す必要がある。
10. 次の研究プログラム:公開データの再読解
なお、次の研究プログラムとしては、先行研究で公開されている会話データを、本稿の観点から再読解することが考えられる。Kim et al. (2023) の不満足応答データセットは、AI応答への違和感・修復行動・未解決感を読むために使える。LMSYS-Chat-1M や WildChat は、実環境における大規模なLLM対話ログとして、履歴生成、検証回路、有害性、現実タスクへの接続を分析する素材になる。さらに ShareChat のようなクロスプラットフォーム会話データは、引用、推論痕跡、コード、ソースリンクなど、AI応答が現実の作業へ接続される過程を読むうえで有用である。
したがって、本稿の次段階は、これらの公開データを「状態変化」「履歴生成」「検証回路」「現実への再接続」という観点から再注釈し、既存のLLM利用研究を人間側の変化の研究へと読み替えることである。
11. 参考文献
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